Apr.07.2022

/ 一生モノ

未完成のうちこそ見ておきたい? 2026年に完成予定のサグラダ・ファミリア

建設中のサグラダ・ファミリアを「生誕のファサード」側から見る(2015年撮影)

世界を旅するようになり、建築に興味を持つようになりました。ただ外観を見るだけでなく、解説などを読みながら見ると理解がより深まります。今回は有名すぎるとは思いますが、スペインのサグラダ・ファミリア聖堂を紹介しましょう。「一生に一度は見たい建物」のランキングでは、タージ・マハルと並んで常に上位にくる建物です。ただ、他の有名建築と違うのは、これがまだ「未完」ということなのです。

ガウディが生きているうちに完成した生誕のファサード

バルセロナが生んだ名建築家アントニ・ガウディ

スペインのガイドブックの表紙やバルセロナの町の紹介の画像に、必ずいってもいいほど使われるのがサグラダ・ファミリア聖堂です。トウモロコシのような形をした鐘楼が上にのびた姿は、他にないユニークな姿でしょう。世界遺産に登録され、スペインで最も人が訪れる観光地ですが、実はこの聖堂はまだ完成していません。今も建物の上部にはクレーンがあり建設が続いています。建設中なのに世界遺産に登録された建物は、おそらくこれぐらいでしょう。

この聖堂を設計したのは、バルセロナ出身の建築家アントニ・ガウディです。ガウディは19世紀末から20世紀初頭にかけて、多くのモデルニスモ建築を設計しました。「モデルニスモ建築」とは、同時期のフランスのアール・ヌーボー運動のように、自然のモチーフを取り入れ、曲線を多用した建築です。また、イスラム風の装飾を取り入れたムデハル建築の影響も受けています。19世紀後半、第二次産業革命で景気が良かったバルセロナでは、新興の産業資本家たちが建築家に最新のトレンドであるモデルニスモ建築を発注していました。なかでもガウディは人気の建築家で、グエル邸、グエル公園、カサ・ミラなどを手がけました。現在、サグラダ・ファミリア聖堂を含め、そのうちの7つが「アントニ・ガウディの作品群」として世界遺産に登録されています。

 

外光を明るく取り入れた聖堂の内部

それまでにない斬新な設計に挑む

1882年に着工したサグラダ・ファミリア聖堂ですが、初代建築家が意見の対立ですぐに辞め、翌年にガウディが2代目の建築主任に就任しました。当時ガウディは31歳。ほぼ無名でしたが、設計を一からやり直し、世界でも類を見ない聖堂の建築を試みます。「サグラダ・ファミリア」とはスペイン語で「聖家族」のこと。教会にはイエス・キリストの生涯を表す「生誕」「栄光」「受難」の3つのファサード(建物の正面部分)を設け、それぞれに4本ずつ鐘楼がのびるスタイルをとりました。12使徒を表すその合計12本の鐘楼に、4人の福音記者を表す4本の塔、イエスとマリアの2つの塔を加えた全部で18本の塔が立つという、斬新な設計です。

サグラダ・ファミリア聖堂の建設資金は、寄付によって賄われていました。しかし資金難もあり、聖堂の建築は遅々として進みません。また、ガウディもその間に売れっ子になり忙しく、また度重なる設計変更もありました。ガウディは1914年以降、宗教建築以外の仕事を断り、ようやくサグラダ・ファミリアに専念し始めます。さらに1925年にはサグラダ・ファミリア内の仕事場に住まいを移しましたが、不幸にも翌1926年に市電にはねられたことが原因で亡くなります。73歳でした。ガウディの生前に完成していたのは、地下聖堂と生誕のファサードだけだったといいます。

「受難のファサード」が完成したのは1987年

聖堂完成までの長い道のり

ガウディの死後も建設は続けられますが、間もなく起きた世界大恐慌、スペイン内戦などにより、たびたび中断します。また、アトリエが火事になり設計図や模型が焼失したこともありました。それでも建設はゆっくりとですが進んでいました。その完成までのスローペースは、私が初めてサグラダ・ファミリアを訪れた1980年代には、「完成までにあと200年」と言われていたほどです。しかし2000年代に入り、作業が急ピッチで進みます。ローマ法王がここでミサを行ったり、世界遺産に登録されたりしたことが宣伝になり、多くの観光客が訪問。より多くの入場料収入と寄付が集まるようになったのです。また建築方法も最新の技術を取り入れるようになりました。

現在、聖堂の完成は、ガウディ没後100年の2026年を目指しています。完成すると中央に最も高いイエスの塔がそびえるので、印象は今とかなり変わることでしょう。未完の姿の印象が強いこの建物ですが、そのイメージが覆り、ガウディの夢がかなう日がまもなく来るのです。

 

実は私はこのサグラダ・ファミリア、5回ほど訪れています。行くたびに「あ、この部分が完成した」という楽しみがあるんですよね。だから完成してしまうのは、個人的には少し残念な気もします。自分が見たときとは外観が変わってしまうのですから。ふつう建物は完成してから見に行きたいと思うものですが、このサグラダ・ファミリアは例外かもしれません。そう考えると、「未完のサグラダ・ファミリアを見に行く旅」、今でしかできない“一生モノの旅”になると思いませんか?

 

[DATA]

サグラダ・ファミリア
URL( www.sagradafamilia.org/ )
開:9:00〜19:30(11〜2月は〜17:30、3月・10月は〜18:30) 休:無休
料金:聖堂18ユーロ(ネット購入15ユーロ)