Apr.09.2022
/ 一生モノ
アマゾン川を行く定期船に乗り、退屈な時間を楽しむ贅沢な旅

「いつかのんびりとした船旅をしてみたい」と思う人はいませんか。飛行機や列車ならすぐに目的地に着いてしまう現代では、単なる移動に船を使うのは逆に贅沢かもしれません。今回紹介するのは、南米を流れるアマゾン川を行く船旅です。豪華なクルーズ船の旅ではありませんが、世界最大の川を行く定期船に乗り、デッキで川面を行く風に吹かれながらビールを飲む。私にとっては、これはとてつもなく贅沢な“一生モノの旅”でした。

アマゾン川を行く定期船。いったいどんな感じ?
世界一の流域面積を持つアマゾン川には、そこを行き来する定期船があります。もちろん移動だけを考えると、飛行機やバスの方が断然早いでしょう。しかし私はこの川の広さを少しでも実感したいと思い、アマゾンの中心都市マナウスから下流の町サンタレンまでの約700km、1泊2日30時間の船を利用することにしました。船の終点はもっと下流、大西洋に近いアマゾン川河口の町ベレンまで行くのですが、それでは4日もかかるのですよね。
船は1階が貨物やバイク置き場、2階がキャビンとハンモックの乗客スペース、3階が甲板と売店がある半オープンデッキになっていました。泊まりは船室のキャビンとハンモックの2種類。キャビンは飛行機並みの料金ですが、私は無理をせずこれを利用しました。2段ベッドがあるだけの狭い部屋ですが、日中はけっこう暑いのでエアコンが効くのは助かります。ハンモックは持参で、広いスペースに40本ほど並べて吊されていました。トイレ、シャワーは共同ですが、男女別に複数あります。ただ水シャワーなので、暑い昼のうちに浴びておいたほうがいいでしょうね。

1日目、なかなか景色が変わらない川沿いの風景
正午を過ぎ、桟橋から船が出港しました。マナウスの町がゆっくりと遠ざかっていきます。増水期ということもあり、川幅はふだんより広いのでしょう。私は開放感に包まれ、キャビンから出てデッキのイスに座ってビールを飲み、川面を見ていました。午後は日陰で本を読んだり、ノートPCに向かったりして過ごしました。ほろ酔いでウトウトしてきたら、船室に戻って昼寝をすればいいのです。それに目覚めて再び甲板に戻っても、川沿いの風景は大して変わっていません。船は時おり小さな港に寄港しますが、荷物の積み下ろしがあるだけでした。
夕暮れ、太陽が雲を金色に染め、周囲が次第に暗くなっていきます。遠くにぽつぽつと明かりが見えました。ジャングルの中でどんな人が暮らしているのだろうと想像しました。暗くなってしまうと夕食タイムです。船は食事付きで、適当な時間になると2階後ろのスペースに米、豆、肉か魚、サラダの4品の料理が乗った大皿が置かれ、ビュッフェ形式で提供されます。夕食がすむと乗客はすることはなく、みな少しずつ寝る方向に向かいました。意外にも熱帯の夜は冷え込み、船室にいた私でも明け方は一度起きて服を着込んだほどでした。

2日目、変わらない風景と退屈を楽しむ
気がつくと翌朝になっていました。時計を見るとまだ5時半ですが、部屋の外はもう人の気配がします。その時まで忘れていましたがブラジルには3つの時間帯があり、いつのまにか出発地より1時間早い時差のエリアに入ったようです。私は時計の針を1時間進めました。
2日目になりましたが、とくに風景の変化はありません。時おり、川岸に近い方にアマゾンカワイルカの背びれが見えます。私は前日と同じく、ビールを飲みながらデッキでのんびりしていました。のんびりするしか、することがないのです(笑)、日が傾いてきた頃、前方に町が見えてきました。サンタレンです。乗客たちはハンモックを片付け始め、私の部屋にも係員が部屋の鍵を取りに来ました。町が見えてから20分ほどで、船が港に接岸しました。乗客たちはそれぞれ別の場所に散っていきます。そして私も、次の目的地へと向かったのでした。

こうして1泊2日の私のアマゾンの船旅は終わりました。アマゾンの船旅、ひとりで話し相手もいないので最初は長いと思っていましたが、終わってみるともう1泊ぐらいしても良かったかなと思います。川であることを忘れるほどのアマゾンのスケール感は、そのくらい時間をかけないと体感できないからです。「退屈な時間を楽しむ」と言っても伝わらないかもしれませんが、このアマゾン川の2日間は、私にとって貴重な“一生モノの旅”の時間の使い方となりました。