Apr.11.2022

/ 一生モノ

標高3700mの塩原に現れる「天空の鏡」ボリビアのウユニ塩湖で日の出を見る

夜明けのウユニ塩湖。鏡張りの水平線に沈むのは月

数年前に日本で起きた“絶景ブーム”の頃、「死ぬまでに見てみたい絶景ランキング」で、よく1位になっていたのが南米のウユニ塩湖でした。私が記事を書いていたウエブの旅行サイトでも、ウユニ塩湖はもちろん人気上位でした。しかし実際に行く旅行先でもウユニ塩湖が上位かというとそうではありません。なにせ行くには遠く、日本からウユニ塩湖だけ見て帰ってくるだけでも最低1週間はかかります。行きたくてもなかなか気軽に行ける場所ではないのです。しかし行ってみれば、やはりそこにはすばらしい絶景が待っていました。今回はもしかしたらあなたの“一生モノ”の旅になるかもしれない、ウユニ塩湖の日の出を紹介します。

カラッと晴れた昼間は、こんなトリック写真が撮れる

富士山頂と同じくらいの高さにある塩原

面積は日本の約3倍という南米の内陸国、ボリビア。その西側は標高2500m以上のアンデス高地が占めていますが、その南部の標高約3700mの場所に、南北約100km、東西約120kmにわたって広がるのが、世界最大級の塩原「ウユニ塩湖」です。日本では「塩湖」が使われていますが、正しくは「塩原」です。アンデス山脈が隆起した時に海底が海水ごと持ち上がり、内陸に取り残されました。それが長い時間をかけて干上がり、現在のような塩の大平原になったのです。広大な面積ですが高低差はほとんどなく、どこを見渡しても白一色の平地が続きます。

まるで太陽のように月が輝くスーパームーンの夜

ウユニ塩湖が人気を集めるようになった理由は?

私は1980年代半ばから世界各地を旅行していますが、90年代のバックパッカーブームの時に旅行者の間でウユニ塩湖の話題が出た記憶はありません。もちろん南米に行く人が少なかったこともありますが、当時はそれほど知られた観光地ではなかったはずです。それが有名になったのは、2010年代に入るぐらいからでしょうか。推測ですが、それには2つの理由があると思います。

まずはデジタルカメラの普及で、誰でも簡単にトリック写真が撮れるようになったこと。フィルムの時代は現像までは仕上がりがわかりません。しかしデジタルならその場で見て調整ができます。比較対象物がなくて遠近感がわからなくなるウユニ塩湖では、その頃からおもちゃを置いてトリック写真を撮るのが流行りだしました。もうひとつがインターネットの普及により、自分が撮った画像を簡単にウエブサイトにあげられるようになったことでしょう。トリック写真が拡散されたほか、「天空の鏡」と言われる、塩の平原に溜まった水が空を映し出す画像も、このころからよくウエブサイトで見かけるようになりました。これがウユニ人気のきっかけではないかと思います。

太陽が顔を出す。水深がほとんどないのがわかるだろう

日本人と欧米人では、見たいウユニ塩湖の表情が異なる?

私は南米を回る旅の途中で、ウユニに立ち寄りました。その数週間前まではブラジルの低地にいたので、ボリビアに入って少しずつ高度を上げて体を慣らしました。人によっては海抜2500mぐらいから高山病の症状が出てきます。私はひどい症状になったことはありませんが、それでも3000mぐらいの高さになると階段を上るのが辛かったり、夜中に睡眠が浅く目を覚ましたりすることもあります。何しろウユニ塩湖は富士山とほぼ同じ高さにあるのです。

ウユニの町は塩原の東端近くにあり、観光へはここを拠点に車で出かけます。しかし着いてから私は、日本人と欧米人では見たい景色が違うことに気づきました。ウユニでは雨季の間、わずかながら雨が降ります。流れ出る河川がなく、またどこまでも平らなので、降った雨は蒸発する前に塩原の表面に薄く広がります。無風の時にはそこに空が映りこむことから、日本では「天空の鏡」と言われている絶景ですが、なぜか欧米ではあまり有名ではありません。むしろ欧米人の観光シーズンは雨が降らない乾季のほうで、干上がった時期に遠近法を利用してトリック写真を撮るのが流行っていました。私が行ったのは乾季でしたが、地元旅行会社は日本人が「天空の鏡」を見たいことを知っており、乾季でも水が溜まっている場所へ行くツアーを出していました。そのツアーに参加してみると、参加者は日本人と韓国人のみ。なぜかこの「天空の鏡」は韓国でも有名なようです。

風が無い時は湖面への写り込みを考えてこんな画像も

月明かりに照らされた塩原

私が参加したのは、「天空の鏡を見るサンライズツアー」です。出発はホテル朝4時。正直言って無茶苦茶寒いので、完全防寒して行くのがいいでしょう。私は前日に町で、セーター、毛糸の帽子、厚い靴下、マフラー、手袋、サングラスを買い込みましたが、すべて必要でした。ツアー参加者7人が乗った4WD車は町を出て30分ほどで、鏡張りのポイントに着きました。水深は4、5cmしかありません。

その夜は偶然にも、「スーパームーン」と呼ばれる満月がより明るく輝く夜でした。星はほとんど見えませんが、そんな明るい月夜もまた気分が上がります。風の無い穏やかな夜で、月明かりが水面に映り込んでいます。逆に月が出ていない夜なら、満天の星が映りこむのでしょう。

どこまでも続く塩の大地

ウユニに太陽が昇る

小1時間で空の色がうっすらと青に変わってきました。空の片側はオレンジ色に染まり、太陽が昇ってくる方向がわかります。さっきまで空で輝いていた月は、もう地平線に降りようとしていました。風がなく静止した水面は本当に鏡のようです。車や人影も、すべて対称的に水面に映し出されます。今までの人生で見たことがないすばらしい景色です。しかしとても寒かったことも忘れられません。体は服を着込めばなんとかなりますが、足先の感覚が保温効果のない長靴を通してなくなっていくのがわかりました。仕方なく私は、時おり車の中に避難して休んでいました。

日が昇ると、少し風が吹いてくるようになりました。すると水面が波立ち、もう鏡のようには見えません。鏡張りのマジックが効くのは、風がない間だけなのです。

 

ウユニ塩湖で迎えた朝日は、なかなか体験できないすばらしいものでした。もちろんその後に行った昼間のウユニ塩原、チリとの国境近い高地も同じぐらい素晴らしいものでしたが、寒さに耐えながら刻一刻と色を変えていく鏡張りのウユニは最高でした。まさに「天空の鏡」です。雨季なら大地一面に広がり、もっときれいなのでしょうね。私にとっては、後にも先にも他では見ることがない“一生モノ”の景色でした。