Apr.14.2022
/ 一生モノ
死ぬ前に一度は観たい。来日しないロックミュージシャンのライブを見に、海外へ行く旅

中学の時にKISSの来日コンサートに行って以来、ライブに行くのが大好きになりました。学生時代は、多い時には有名無名、国内海外を問わずに毎週のようにロックのライブを観ていた時期もあります。しかし大人になり家庭も持ち、歳も取ると、その回数はどんどん減っていきました。人生も落ち着き、いい年齢になってきたこの頃ですが、今度はかつて見たかったアーティストたちが次々と他界するニュースを聞くようになりました。そこで数年前から、「行けるうちに見ておく」と海外へコンサートを見に行くようにしています。これは自分にとってある意味、時間との戦いの“一生モノの旅”なのです。

「いつか観たい」ではなく、積極的に実現させる
きっかけは2016年1月10日にデビッド・ボウイが亡くなったことでした。その前年の11月、私はベテランロックバンドであるフリートウッド・マックのオセアニアツアーのニュースを知りました。バンド最盛期のメンバーによる再結成ツアーですが、メンバーも高齢だからこれが最後のチャンスかもしれません。長年のファンなのに一度もライブを観たことがない私は、こちらから海外へ行くのもいいかと思いました。しかし結局は踏ん切りがつかずに諦めてしまったのです。そして年が明け、好きだったボウイが亡くなり大きなショックを受けたのです。ボウイは過去の来日時に2回ライブを観たことがあり、行っておいて良かったと思うと同時に、フリートウッド・マックのライブに行かなかったことを強く後悔したのです。
同じ1月にはイーグルスのグレン・フライと、アース・ウインド&ファイヤーのモーリス・ホワイトが相次いで亡くなりました。共に好きなバンドで来日もしていたのですが、見そびれていたのです。自分が好きなアーティストは60〜70年代デビューが多く、メンバーも高齢なのでそろそろ亡くなってもおかしくありません。ならば「行けるうちに行っておこう!」と、未見の海外アーティストたちの公演スケジュールをチェックするようになりました。「死ぬまでに観る」ことを目標にしたのです。自分だっていつ死ぬかわかりません。また、生きていても病気になって動けなくなることだってあります。ならば後悔するより、いま夢を果たすことにしました。

さっそく行動開始! 仕事を調整し、チケットを取る
大好きでCDもほぼ持っているのにまだ観たことがない現役ロックミュージシャンは、ブルース・スプリングスティーン、ヴァン・モリソン、トム・ペティ、フリートウッド・マックの4組です(フリートウッド・マックのみバンド)。そのうち日本に一度も来たことがないのは、アイルランドの孤高のシンガー、ヴァン・モリソンです。2月に入りこのモリソンが、4月にニューオーリンズで行われるフェスに出演することを知りました。そこで仕事を調整し、急いでチケットやホテルなどの予約を始めました。
3月になると今度は、ブルース・スプリングスティーンが欧州ツアーを行うことも知りました。スケジュールを見ると5月の連休明けに、スペインのバルセロナで公演があります。バルセロナには家に何度か泊めてもらった友人がいるので、ダメ元で友人に「スプリングスティーンのチケット取れる?」とメールを送りました。公演はサッカーのFCバルセロナの本拠地のカンプノウスタジアムで行われるのですが、ラッキーなことに友人はFCバルセロナの会員で、「会員枠でチケットが取れそう」と返事が来ました。これは利用しないわけにはいきません。
3月末、友人からチケットが取れたという知らせを受け、一番安い航空券の手配をします。一ヶ月ほどの間に、ニューオーリンズとバルセロナ両方に行くので、その前後の仕事が地獄のようでしたが目標があればなんとかなるものです(笑)。まずはGWにニューオーリンズへ旅立ちました。

ニューオーリンズ、そしてバルセロナに行った2016年
ニューオーリンズは早朝に着き、ホテルチェックイン後、そのままフェス会場に向かいました。1945年生まれのヴァン・モリソンは、その時70歳。1964年にバンド、ゼムのリードシンガーとしてデビューし、1966年以降はソロアーティストとして活躍しています。日本ではあまり知られていませんが、欧米ではトップミュージシャンです。この時は代表曲も取り混ぜる、ほぼ曲間なしの怒涛のメドレーで70分19曲を聴かせてくれ、私は夢が叶い大満足でした。ライブが始まる前には、軽飛行機がその2週間前に亡くなったPRINCEの文字を青い空に描いていました。人はいつ死ぬかわからないもの。私は思い切って行動し、ここまで来られた幸せをつくづく感じました。

3週間後、今度は私はバルセロナのカンプノウスタジアムにいました。9万人以上を収容できるスタジアムは、グランドまで超満員。隣はアメリカから来たファンで、世界中からこのコンサートを見に来ているのでしょう。ブルース・スプリングスティーンは、1997年以降には来日していません。海外の人気と日本での人気の落差を考えれば、今後も来日は望み薄です。なのでまさか本物を目の前で見られるとは夢にも思っていませんでした。

開演は土曜とはいえ21時。70歳近いのに最初の一時間はほぼ曲間やMCなしで押し切り、そのパワーに驚きました。そしてライブがなかなか終わらない(笑)。3時間を超えると、もうこのライブは永久に終わらないのではないかと思いましたよ。2回のアンコールを含む4時間全36曲のステージに圧倒され、結局、ライブが終わったのは深夜1時でした。生涯に観たベストライブのうちのひとつです。

死の半年前に観たトム・ペティの2017年ライブ
翌年2017年は、結成40周年記念ツアーの一環でトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズが出演したニューオーリンズのフェスに行きました。1950年生まれのペティとそのバンドは、アメリカではスーパーボウルのハーフタイムショーで演奏するほどの国民的バンドです。しかし日本ではなぜか人気がなく、バンドの単独日本ツアーは1980年の1回だけで、全盛期を日本で見たことがある人はほぼいません。
当日は朝から暴風で、フェス中止一歩手前になりましたが、奇跡的に天候が回復しライブを見ることができました。フェスにもかかわらず、内容は通常のコンサートと同じ2時間にわたる充実したものでした。この時は代表曲を中心に演奏。年齢層は平均50歳ぐらいと高かったですが、会場は大合唱でした。トム・ペティの訃報を聞いたのは、そのライブの半年後の2017年10月でした。ツアーを終えた1週間後に鎮痛剤を過剰服用し亡くなったのです。
現在も時おり、海外に観に行きたいライブがあります。もちろんすべてが行けるわけではありません。しかし何度か行った経験があると、行けるか行けないかのハードルは自分の心の中にあると考えるようになりました。“いつか”は受け身では実現できません。自分で積極的に行動し遠くまで観に行ったコンサートやライブは、自分にとっては“一生モノ”の旅になるのです。