Apr.20.2022
/ 一生モノ
フランスのディープスポット!著名人が眠るパリの3大墓地 その2 モンマルトル墓地

パリ市街北部にあるモンマルトルの丘。ここは19世紀末から20世紀初頭にかけて、ピカソやモディリアーニ、ゴッホなど数々の芸術家たちが集まってきた場所です。そのモンマルトルの西端に「モンマルトル墓地」があります。ペール・ラシェーズ墓地、モンパルナス墓地と並ぶパリの3大墓地ですが、その中では一番小さいでしょうか。しかしここも多くの有名人が眠っています。墓地は自由に入れるので、近くまで来たら寄ってみてはいかがでしょうか。今回も私が好きな人のお墓を訪ねてみました。パリのお墓巡り、第2弾をお送りします。
愛をひたすら描いた映画監督フランソワ・トリュフォー

私がこの墓地に行きたかった一番の理由は、映画監督フランソワ・トリュフォーの墓があるからです。今の若い方には馴染みがないと思いますが、私が映画を観始めた高校生時代、トリュフォー作品は名画座の定番プログラムでした。1932年にパリで生まれたトリュフォーは、1959年に自伝的な『大人は判ってくれない』で長編映画デビューをします。この作品は、ゴダールの『勝手にしやがれ』(1959)と並ぶ「ヌーヴェルバーグ(「新しい波」の意味)の代表作品になりました。以降『ピアニストを撃て』(1960)、『突然炎の如く』(1961)、『アメリカの夜』(1973)などの名作を発表。1977年にはトリュフォーを敬愛するスピルバーグ監督に請われ、映画『未知との遭遇』にフランス人科学者役で出演します。しかし1984年、脳腫瘍により52歳の若さで亡くなりました。トリュフォーは暴力を嫌い、生涯、恋愛映画しか撮りませんでした。トリュフォー作品に出会った当時、高校生だった私は「大人になったら、あんな恋愛してみたい」と思ったものです(笑)。トリュフォー映画、いま見てもおしゃれですよ。
サスペンス映画の巨匠アンリ・ジョルジュ・クルーゾー

モンマルトル墓地には、フランスを代表するもうひとりの映画監督、アンリ・ジョルジュ・クルーゾーの墓もあります。1907年生まれのクルーゾーはトリュフォーよりも上の世代。トラックでニトログリセンを運ぶ男たちのサスペンス『恐怖の報酬』(1953)、ホラーのような犯罪もの『悪魔のような女』(1954)は、名作といっていいでしょう。この2本は私が子供の頃によくテレビで放映していたのですが、大人になって再鑑賞したら本当によくできている映画なので驚きました。両作品共、のちにアメリカでリメイクされていますが、クルーゾーのオリジナルは凌げませんでした。機会があったらこの2作品は絶対に観てくださいね。
名曲「枯葉」の作曲者ジョゼフ・コスマ

映画つながりですが、ハンガリー生まれの作曲家ジョゼフ・コスマの墓もここにあります。1905年生まれの彼はユダヤ人だったため、ナチスの台頭とともにパリに移り住みます。やがて映画音楽に携わるようになり、ジャン・ルノワール監督の『大いなる幻影』、マルセル・カルネ監督の『天井桟敷の人々』などの名作の音楽を作曲しました。しかし今も多くの人によって歌われ続けているのは、ジャズやシャンソンのスタンダードナンバーとなった「枯葉」でしょう。これは映画『夜の門』の主題歌で、映画では主演のイヴ・モンタンが歌いましたが、フランスではジュリエット・グレコのバージョンがヒットしました。ジャズではマイルス・ディヴィスやビル・エヴァンスの演奏が有名ですね。実はこの曲、フランス版ではみなさんが知っているメロディーの前に長いイントロがあるのですが、アメリカではそれがカットされてしまい、そちらのほうが有名になってしまいました。
伝説のバレエダンサー、ニジンスキー

伝説のバレエダンサー、ヴァーツラフ・ニジンスキーの墓もこの墓地にあります。1890年にウクライナで生まれたニジンスキーは、1909年にパリで興行師のディアギレフ、ダンサーのアンナ・パヴロワ、振付師のフォーキンらと共にバレエ団「パレエ・リュス」を立ち上げます。これが大成功し、20世紀のバレエの新しい形を作るのです。フォーキン振り付けの『薔薇の精』『ペトルーシュカ』が話題になった後、自ら振り付けした『牧神の午後』と『春の祭典』は物議をかもすものの、バレエの新時代を切り開きました。しかし1919年以降は精神を病み、引退。1950年に亡くなります。日本では山岸凉子の漫画にもなりましたが、私は映画で彼を知りました。ニジンスキーの踊る映像は残念ながら残されていません。
このモンマルトル墓地には、他にも印象派の画家エドガー・ドガ(バレエの絵で有名ですね)、楽器のサックスの発明者アドルフ・サックス、ロマン派の詩人ハイネ、ロマン派の作曲家ベルリオーズなどが眠っています。大きな墓地ではないのでお墓は見つけやすいと思います。あなたのお好きな偉人がいたら、寄ってみてはいかがでしょうか。
坂道が多いモンマルトルは、パリの中でも私が好きな地区です。偉大な芸術家たちが有名になる前に同じ道を歩いたと思うと、気分も高まります。そんな街歩きの合間にふらりと寄れる場所がこの墓地です。ゴッホとテオが住んでいた家や、ムーラン・ルージュ、映画の中でアメリが働いていたカフェからも歩いて5分もかかりません。ここでしばし静けさに浸り、偉人たちへ思いを馳せるのもひとつの旅。そんな瞬間も“一生モノの旅”のひとつではないでしょうか。
[DATA]
モンマルトル墓
https://www.paris.fr/equipements/cimetiere-de-montmartre-5061