May.06.2022
/ 一生モノ
珍しいグルメ発見! 生ハムで有名な雲南省諾鄧(ヌオドン)

魚や肉などの生食の習慣がない中国に、生ハム作りを見に行ってきました。「生ハム」は中国では「火腿(フオトゥイ)」と言います。火腿は中国では単にハムと言う意味ですが、実際は生ハムのことです。その中国で生ハムと言えば浙江省の金華ハムが有名ですが、産地は中国各地にあります。私が行ったのは、雲南省北部の町・大理から約165キロ離れた雲龍県の諾鄧(ヌオドン)です。毎年冬至になるとこの村中で生ハム作りをすると言うドキュメンタリー番組を見たので、冬至にばっちり照準をあわせて行きました。中国の生ハムの本場で、その生ハム作りを見られるなんて本当に貴重な機会です。人生初で最後と思い、行ってきました。
生ハム作りの季節にやってきたのに、まさかの展開
諾鄧は、秦、漢代から塩を産出している村です。塩は国家の専売品だったので明代には、塩を管理する「塩課提挙司」と呼ばれる役所も諾鄧に置かれていました。抜けるような冬の青空の下、石畳が敷かれた村のあちこちで「火腿、売ります」の手描き看板を目にします。これから人生初、豚の後脚に諾鄧産の塩を塗りつけて、生ハム作りをするところを見学できると思うと、ワクワクしてきました。ところが村人に聞くと、火腿作りはちょうど1週間ほど前に終わったそうなのです。冬至に照準を合わせてこんなに遠くまでやって来たのに、もう言葉もでません。

ショックでぼんやりと村を歩いていると、広場に村人が集まって、なにやら作業中。のぞきこむと白いぐにゃぐにゃしたものを作っています。それは「豆腐腸(トーフチャン)」と言う豆腐で作ったソーセージでした。豆腐に豚の血、五香粉を加えてものを混ぜたものを、豚の腸に詰めたものです。これを日陰の涼しいところに干し、豆腐が黒くなったら食べられるとか。生ハム作りは残念でしたが、豆腐腸作りが見られるのも滅多にないことです。とにかく見学させてもらうことにしました。

中国でも珍しい豆腐腸とは?
豆腐腸は大理市永寧県の特産品ですが、火腿と比べれば無名です。地味な食材というのが原因のひとつかもしれません。しかし私にとっては特別な食材です。今回、生ハム作りを見に来るきっかけになったのは、中央電視台で放送された「舌尖上的中国(舌の上の中国)」と言う食のドキュメンタリー番組でした。実は前年、私はこの「舌尖上的中国」で取り上げられた安徽省の黄山へ、特産の「毛豆腐」を食べに行っています。その時、菌が表面にびっしりはえた毛豆腐に感動した私は、珍しい豆腐巡りを旅のテーマのひとつに決めていました。だからまさか諾鄧で豆腐を使った食材を見られるなんて、予想外のうれしい展開です! 翌日、豆腐腸が村の食堂で食べられるそうなので、村を出る前に生ハムを買っておくことにしました。

諾鄧に行ったからには、やはり買ってみたい特産の火腿
諾鄧は781戸、人口約2200人の小さな村です。村のあちこちで「火腿売ります」の看板がかかっているので、そこで買うことができます。私が行った家では、塩を豚の足全体にまぶし、天上から吊るす前の状態のものを見せてもらうことができました。これだけでも感激です。生ハムは作ってから半年後ごろから食べられますが、やはり1~2年保存したものが美味しいと言われています。特に2年以上ものは熟成して本当に美味しそうですよ。


火腿は、薄く切って炒めるより大きな塊を水で茹で、スープをとるのが一番上手な使い方だそうです。諾鄧ではこんな風に火を通して火腿を食べますが、上海や北京などの沿岸部の大都市では、薄く切って生のままワインと一緒に楽しむ人も増えています。

豆腐腸は豆腐? それともソーセージ?
さて翌日、村の広場に面した民宿兼食堂で、私は念願の豆腐腸を食べることができました。1か月以上干して外側が真っ黒になった豆腐腸。切ると、中は表面に比べて赤黒いグロテスクな感じです。これを20分以上茹で、臭みをとります。それを屋外で干した豚バラ肉のスライスと一緒に蒸せば、できあがり。お味は豆腐なのにしっかりした噛み応えがあり、肉そのもののよう。食感も味も豆腐ではなく、まさにソーセージでした。
生ハム作りを見に行き、私が旅のテーマのひとつにしている珍しい豆腐作りを見ることができました。この予想外の展開が私に教えてくれました。広大な中国大陸には、まだまだ外国人旅行者に知られていない珍しい食材があるのでしょう。日本にはない、面白い食材を求める旅は。これはまさに“一生モノ”の体験ができる、美味しい旅になることまちがいないでしょうね。