May.07.2022

/ 一生モノ

街中が大盛り上がり スペイン東部の都市バレンシアの火祭り

こんな立派なファジャ(張り子人形)も最終日には燃やされてしまう

世界各地で行われている、郷土色豊かなお祭り。名所旧跡だけではなく、そうしたお祭りを見に行く旅というのもなかなか楽しいものです。お祭りの期間中は、街も人々もいつもと違い興奮気味。そして有名な祭りであれば、それを見にやってくる観光客も少なくありません。そうした内外の人々が一体になった独特の高揚感が得られるお祭りは、忘れられない思い出になります。今回はそんな中から、スペインの春を告げる祭りとして有名なパレンシアの火祭りを紹介しましょう。

火祭りが行われる守護聖人ホセの日

毎年3月15日から19日までの5日間、スペイン東部の都市バレンシアで町をあげて行われるこのお祭りは、日本では「バレンシアの火祭り」または「サン・ホセの火祭り」の名で知られていますが、スペイン語では単に「ファジャス Las Fallas」、バレンシア語なら「ファジェス」といいます。「ファジャ」とは、中世バレンシア語で「たいまつ」を意味していたそうですが、現在はこの火祭りそのもの、あるいは飾られる張り子の人形を指します。

期間中は市内の各所に、大小様々な張子の人形(ファジャ)が飾られます。大きいものは10m以上。人形の題材は伝統的なものから、風刺的なもの、その年を代表するものなどさまざま。年によっては、日本のアニメ作品のキャラクターが登場したこともあるとか。しかしせっかく作ったこれらの立派な人形も、最終日には惜しげもなく燃やされてしまうのです。

子供向けの小さなファジャ(張り子人形)もある

この祭りの起源は、かつて冬が明けた3月に大工職人が古道具などを燃やしていたことと、大工の守護聖人であるサン・ホセの日(3月19日)が結びついたからといいます。「ホセ」はイエスの義父であるヨセフのスペイン語名。イエスの一家の家業は大工でした。なのでホセ(ヨセフ)は大工の守護聖人なのです。

中世に栄えたバレンシアの町を散策

春先にスペイン行きを考えた時、私が是非とも見たいと思ったのが、この火祭りでした。そこで日程をうまく調整し、その期間中にバレンシアを訪れることにしたのです。

最終日は宿が取れなくなると聞いていたので、私は初日の3月15日にバレンシア入りし、値段の安い古びたペンションを見つけて荷を降ろしました。滞在していた5日間のうち、私は2日間を郊外(テルエルとクエンカ)の日帰り観光に、あとはバレンシア市内の見どころや祭りの見物をしていました。

中心部にあるカテドラルは、14世紀に完成したゴシック様式の教会です。「ラ・ロンハ」は15世紀末にゴシック様式で建てられた商品取引所の建物で、世界遺産に登録されています。2つとも当時のバレンシアの繁栄を示しています。ラ・ロンハの中庭のオレンジの木に実がなっていたので「これが有名なバレンシア・オレンジ」と思いましたが、後で調べたらバレンシア・オレンジの原産地はアメリカのカリフォルニアで、まったく関係ありませんでした(笑)。

商品取引所として建てられたラ・ロンハは世界遺産にも登録されている歴史的な建物

お祭り期間中の町の様子は…

町はこの5日間は完全にお祭りモードで、闘牛場も開いていました。スペインの闘牛シーズンは、このバレンシアの火祭りが幕開けとなります。つまりバレンシアではその年、どこよりも早く闘牛が見られるのです。また街中ではあちこちで、大きな鍋のパエリアが作られていました。おいしそうですがこれは近所の寄り合い用で、販売用ではありません。スペイン料理で有名なパエリアですが、その本場はこのバレンシアなのです。私は仕方なく、屋台のパエリアで我慢しました。

伝統衣装を着た女性たちによるパレードが、毎年2日間に渡って行われる

張り子の人形は3月15日から市内各所で飾り付けられます。これは大きな大人用のものと、小さな子供向けのものがあります。また、3月17・18日の16時からは街中で、民族衣装を着た女性や小さな女の子たちによるパレードも行われました。そしていよいよ最終日の夜になります。

これは子供向けの小さなファジヤを燃やすところ。これが終わったら子供は寝かせられる

祭りのハイライトは、張り子人形を燃やす「クレマ」

張り子の人形に火を燃やすイベントは「クレマ」と呼ばれ、日にちが変わる19日の24時に行われます。メインの張り子は市役所前に置かれていますが、かなり早い時間からもう人でいっぱいです。そこで私は、昼間に目をつけておいた小さな広場にある張り子のほうに陣取りました。

まずは22時になると、子供向けの小さな張り子が燃やされます。これが終わると子供は家に引き上げます。そして24時になるとメインの大人向けの人形が燃やされます。といってもピッタリの時間ではなく、各地区を回っている消防隊の到着を待ってからのこと。私は前の方に陣取っていましたが、これが大変でした。火をつけられた人形は紙と木でできていることもあり、みるみる燃え上がっていきますが、これがとても熱いのです。火の勢いに見物客はおもわず後ずさり。火の粉も降ってきて、悲鳴も聞こえます。そこでホースを持った消防士はどうするかというと…、消すのではなく見物客に水をかけるのです(笑)。もちろん本気の量ではありませんが、「水!水!」の掛け声が出るほど、本当に熱かったです。私が見ていたところは建物に囲まれた狭い広場で、そこに炎が10メートル近く上がるので、周囲が火事になる危険は確かにあるなと思いました。やがて人形が燃え尽きてくると、消防士が放水して鎮火。これでクレマは終了です。人々は散り散りになり、そのまま朝まで飲むのか、それとも1時に行われる市役所前のクレマに行くのでしょう。

この夜、とにかく町を歩く人々の顔にはみな高揚感が漂っており、こう書いていても興奮するイベントでした。

 

その夜私は途中で意気投合した日本人旅行者たちと深夜3時ぐらいまでバルで呑みました。私はその後、宿に帰って寝ましたが、宿が取れなかった旅行者は駅で夜明かししていたようです。翌朝、外に出てみると町はゴミだらけでした。きっとかなりの数の人たちが、夜遅くまで遊んでいたんでしょうね。このバレンシアの火祭り、私にとっては飛び切りのエキサイティングな体験になりました。あなたも参加すれば、“一生モノの旅”になるかもしれませんよ。

 

[DATA]

バレンシアの火祭り
毎年3月15〜19日に開催。期間中はホテルが取りにくくなるので早めの予約を。また料金も特別料金で値上がりする。日帰りできる近隣の町に宿を取るのもいい。